「やくそく」ストーリー
起業して間もないころ、娘とテレビを観ていると、
そこには、度重なる内戦などで貧しさにあえぐ、カンボジアの人びとが映っていました。
その中で特に目を引いたのは、学校や教員、物資の不足から、
満足に教育を受けることができない子どもたちの現状。
教育が行き届いていないため、将来になんの希望も見いだせず、ゴミ山でその日の生活費を稼ぐ、その日暮らしが当たり前のカンボジアの子どもたちの姿でした。
その時、娘が
「ねぇパパ、なんでこの子たち働いてるの?
なんで学校に行かないの?」
たぶん、娘は今、自分が置かれている状況との違いを素直に口にしたのだと思います。
私は娘に
「この子たちの国は、争いがたくさんあってね、
学校がなかったり、 生きていくために、
勉強もできずに働いている子がたくさんいるんだよ。
でも、みんな一生懸命生きているんだ」
「学校がないの? かわいそうだね…」
そして私は、娘に聞いてみた。
「いつか、カンボジアに学校建てよっか?」
「建てられるの?」
「今すぐは無理だけど、ちょっと待っててね」
「うん!」
また、会社の社員や関係会社にも飲んだ席で話し、「学校を建てよう」と「やくそく」をしました。
その娘との「やくそく」から10年の歳月が流れ…
いくつもの困難がありましたが、皆の努力もあり、会社は少しずつ業績を伸ばすことができました。
そんな折り、タイで一緒に仕事をした方に、カンボジアで学校を建てたいという話をしたところ、
「では、一度カンボジアに行って、学校支援をしている人たちを紹介してあげましょう」
というお話しをいただきました。
「本当に動き出す」と直感的にそう感じました。
私は初めてカンボジアの地に立ち、事前に少しわかってはいたものの、
予想以上にインフラの整備は遅れており、衛生面も非常に厳しい状態。
ここで生活できるか? と問われたら簡単にうなずけるような所ではありませんでした。
所々トタンが剥がれ、今にも崩れそうな校舎で学ぶ子どもたち。
教員数も少なく、お世辞にも良い就学環境とは言えない。
でも、学ぶことができているこの子たちはまだマシな方なのでしょう。
生まれながらにこの環境で生活をしているので、
自分たちが貧困だという意識も薄い。
いや、思ったところでどうにもならないと思っているのかもしれない。
「すべての子どもたちに、学ぶ機会を持ってほしい」
子どもたちを前に、思いを強くしました。
私は改めて、カンボジアに学校を建てることを決めました。
はじめは私立校の設立を目標としましたが、
建物だけでなく教職員の手配など関係官庁との調整の準備に
時間がかかり、いつ調整がとれるのかわからない状態…。
そこで現地で学校建設を行っている日本のNPO法人と協力して、
まずは一番必要とされている所に公立校を1校建てることにしました。
そして、実際のプロジェクトの運営を二人の男たちに託しました。
まだ、会社も小さく、そんな資金もない頃からこのプロジェクトのことを話していた二人です。
長年の想いが動き出すことを喜んでくれました。
プロジェクトがスタートすると、色々な協力者が声をかけてくださり、話はどんどん進んでいきました。
でも、カンボジア支援には多くの問題が内在しています。
カンボジアには「人に魚を与えるより、魚の釣り方を教える方がいい」ということわざがあります。
「かわいそうな人たち」という見方で大きなお金を投入して、すべてを与えるだけでは
現状に対する根本的な解決にはならないのです。
俺たちは、“あしながおじさん”じゃない。
学校をひとつ建てて終わるのも、それで「良いことした」と満足するのも違うと思っています。
現状を改善し、一人でも多くの子どもたちが就学できるように、
我々にできる小さいことをできるだけたくさん、できるだけ長く続けていきたい、そう思っています。
そのためにはどうすれば良いか、継続的な支援にはより多くの支援者の協力が必要です。
今回の学校建設がその布石になればいいと思っています。
「やくそく」から10年、すでに学校建設の計画は目に見える形で進んでいます。
でも、このプロジェクトは、何よりもお客様がいてくださったからこそ始められたことです。
また、計画を進めている現地支援に携わるNPOの方々、プロジェクト事務局のメンバー、
そして、社員の皆と関係会社の皆さんが頑張って会社を支えてくれたからこそのものです。
私はその号令をかけたにすぎません。
皆さん本当にありがとうございます。
そして「カカ、おとんカンボジアに学校建てますよ」
その娘との「やくそく」から10年の歳月が流れ…
今秋の新学期には、最初の笑顔に出会ますように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このプロジェクトが多くの皆様の目にとまり、
日本の方々が遠く離れたカンボジアの現状に
関心を持つひとつのきっかけになればと願っております。